ケンカを見守る勇気
数年前の園だより”はばたき”で紹介したものです。
ケンカを見守る勇気
~ロンドンの幼稚園が教えてくれたもの~
以前、私はロンドンの幼稚園で働きながらロンドン大学教育研究所で研究をおこなっていました。ある研究の中で、日本とロンドンの幼稚園の日常風景のビデオをお互い見てもらい意見を聞いていたときのことです。
ロンドンの幼稚園を映し出すビデオの中で、2人の子どもがひとつのおもちゃを欲しがりました。そして、口論が始まるか始まらないかというとき、近くにいたロンドンの先生が、「ケンカは悪いことよ」と一言、2人の間に入りすばやく止めたのです。
その様子を見ていた日本の幼稚園の先生達。
「なんで、すぐにとめにはいるの?せっかくの、子ども達の社会経験の場なのに。ケンカはとっても大切な経験の場。その中から人の痛み、手加減、ケンカのルールを学ぶのに。日本だったら、ケンカが起こったら、それをわきで見つめ手が出そうになるまで、決して間には入りません。」
と、異口同音に不快感を表したのです。
私は、日本の先生の意見をロンドンの先生に伝え、なぜケンカを止めるのかその理由を聞いてみました。
するとしばらくの沈黙の後、ロンドンの園長先生が重い口を開きました。
「私達も、ケンカがとても大切なことと分かっています。できれば日本の先生のようにケンカを遠くから見守っていたい。でも、そうできない理由があるのです。」
ロンドンは、権利意識の強い権利社会。なんでもすぐに裁判になり、ケンカして、もしも万が一何かが起こったら。。。。とそのことを考えると、子ども達のことよりも、自分達を守ってしまう・・・と。そのため、ケガをしても、アレルギーの子が万が一いたら・・・と消毒もバンソウコウもできない幼稚園があるという実態を悲しそうな顔で話してくれました。
生まれて初めて親から離れる幼稚園生活は人間関係を学ぶ場。
おもちゃの取り合いなどのお友達との関係を通して、
仲間はずれ、ねたみ、悲しみ、同情、思いやり、喜びと、私達、大人の社会で起こっていることのすべての感情を経験すること。そして、その感情を抑えたり、表したり、調整する力を身につけること。
それこそが幼稚園に通う意義のひとつではないでしょうか。
私達大人がケンカを見守る勇気。
大切にしたいですね。